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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)9952号 判決

反訴原告

奥村亮威

反訴被告

藤田知恵

ほか一名

主文

1  反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金一億一四五二万七一六三円及びこれに対する平成七年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴原告の反訴被告らに対するその余の反訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを二分し、その一を反訴原告の、その余を反訴被告らの負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告らは、反訴原告に対し、連帯して金二億二一九一万六〇六八円及びこれに対する平成七年五月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、訴外奥村華英(以下「訴外華英」という。)運転、反訴原告(以下「原告」という。平成二年三月二三日生、事故当時五歳)同乗の普通乗用自動車と、反訴被告藤田健一(以下「被告健一」という。)所有、反訴被告藤田千恵(以下「被告千恵」という。)運転の普通乗用自動車が衝突した事故により原告が被った損害につき、原告が、被告千恵に対して民法七〇九条に基づき、被告健一に対して自動車損害賠償保障法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

1  争いのない事実

(一)  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(1) 日時 平成七年五月二七日午後三時五〇分ころ

(2) 場所 兵庫県加古川市平岡町一色四三二番地の一交差点内(以下「本件事故現場」という。)

(3) 事故車両一 普通乗用自動車(登録番号・神戸五〇ぬ三九二六、以下「原告車」という。)

運転者 訴外華英

同乗者 原告は、本件事故当時、原告車の左後部座席に同乗していた。

(4) 事故車両二 普通乗用自動車(登録番号・姫路五八や八〇二〇、以下「被告車」という。)

運転者 被告千恵

所有者 被告健一

(5) 事故態様 信号機により交通整理の行われていない交差点において、原告車と被告車が出合い頭に衝突した。

(二)  責任原因

本件事故は、被告千恵の前方不注視及び一時停止義務違反により生じたものであるから、同人は民法七〇九条に基づいて、また、被告健一は被告車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づいて、それぞれ原告が被った損害を賠償する責任がある。

(三)  傷害

原告は、本件事故により、頭部外傷、右外傷性脳内出血、外斜視の各傷害を負った。

(四)  入通院経過

(1) 平成七年五月二七日、順心病院に通院した。

(2) 平成七年五月二七日から同年七月二一日まで、明石市立市民病院に入院した(入院日数五六日)。

(3) 平成七年七月一〇日から平成一〇年五月三一日まで(ただし、(5)記載の入院期間を除く。)、ボバース記念病院に通院した(実通院日数九三日)。

(4) 平成七年八月一日から平成一〇年二月一七日まで、明石市立市民病院に通院した(実通院日数一三日)。

(5) 平成七年八月一八日から同年九月二二日まで、ボバース記念病院に入院した(入院日数三六日)。

(6) 平成七年九月二〇日から平成一〇年五月三一日まで、服部物療院に通院した(実通院日数一九〇日)。

(7) 平成七年一〇月一七日から平成八年五月二四日まで、姫路市立花北診療所に通院した(実通院日数二七日)。

(8) 平成八年四月二三日から平成一〇年五月三一日まで(ただし、(10)記載の入園期間を除く。)、あさしお園・南大阪療育園に通園した(実通園日数五九日)。

(9) 平成八年四月三〇日から平成一〇年三月一三日まで大阪市立総合医療センターに通院した(実通院日数八日)。

(10) 平成九年一月六日から同年八月二九日まで、あさしお園・南大阪療育園に入園した(入園日数二三六日)。

(11) 平成九年五月二三日から同月二九日まで、大阪市立総合医療センターに入院した(入院日数七日)。

(五)  損害の填補

原告は、被告らから、本件事故による損害賠償金として二九九一万三三五四円の支払を受けた(仮処分事件における和解金二四〇万円を含む。)。

2  争点

(一)  過失割合

(被告らの主張)

本件事故の発生については、訴外華英にも、前方不注視の過失があるので、被害者側の過失として一割の過失相殺をするのが相当である。

(二)  原告の後遺障害の症状固定日及び内容・程度

(原告の主張)

原告の傷害は平成一〇年五月三一日に症状固定し、後遺障害の内容及び程度は、(1)中枢神経系の左上下肢片麻痺及び片側アテトーシス・ジストニア(以下「中枢神経系の後遺障害」という。)は、自賠責保険後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)の五級ないし三級、(2)精神の障害としての、集中力持続困難、多動的、情動抑制困難等(以下「精神の障害」という。)は、等級表の五級ないし三級、(3)外傷性てんかんは、等級表の九級にそれぞれ該当し、以上の(1)ないし(3)の後遺障害を総合して判断すると、原告の後遺障害は、神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するものといえ、等級表の二級に該当する。

(被告らの主張)

原告の後遺障害は平成九年一二月三一日に症状固定し、後遺障害の内容及び程度は、(1)中枢神経系の後遺障害は、等級表の五級、(2)精神の障害は、等級表の五級にそれぞれ該当する。

そして、脳挫傷や外傷性脳内出血などの脳損傷による後遺障害は、それぞれの障害が密接に結びつきあう有機的関係にあるから、各後遺障害を個別に論じるべきでなく、中枢神経系の機能障害と精神の障害は同一系列の障害であるから、いわゆる併合による等級の繰り上げ適用はない。

したがって、原告の後遺障害は、上記(1)及び(2)を総合して等級表の五級に該当する。

(三)  損害

(原告の主張)

(1) 症状固定日(平成一〇年五月三一日)までに発生した積極損害

〈1〉 治療費 七二八万三〇八五円

平成一〇年五月三一日までの治療費は、七二八万三〇八五円である。

〈2〉 交通費 四三七万〇七九〇円

平成一〇年五月三一日までの交通費は、四三七万〇七九〇円である。

〈3〉 入院雑費 四二万六四〇〇円

平成一〇年五月三一日までの入院日数は三二八日であり、一日につき一三〇〇円を認めるのが相当である。

〈4〉 付添看護費 一一〇一万円

付添看護費は、平成一〇年五月三一日までの一一〇一日につき、一日一万円として、一一〇一万円と認めるのが相当である。

〈5〉 装具費(争いがない。) 一一八万五〇二一円

〈6〉 住居費(争いがない。) 二四六万九五九〇円

〈7〉 文書費(争いがない。) 三万〇二八〇円

〈8〉 諸雑費(争いがない。) 一三万五四〇〇円

(2) 将来の積極損害

〈1〉 治療費及び交通費 九九一万一一六〇円

原告の後遺障害の内容、程度及び年齢等を考慮すると、原告は症状固定日から一八歳になるまでは、治療を継続する必要があり、そのために必要な治療費及び交通費は九九一万一一六〇円である。

〈2〉 介護費 七四七二万九七五円

原告の後遺障害の内容、程度及び年齢等を考慮すると、原告は症状固定日(原告八歳)から平均余命である七六歳までの六八年間にわたって介護を受ける必要性があり、介護費は、将来の回復及び成長に伴う介護の負担の軽減を考慮しても、原告の家庭状況等を考慮すれば、一日あたり七〇〇〇円と認めるべきである。

〈3〉 装具費 一〇〇万円

原告の後遺障害の内容、程度及び年齢等を考慮すると、症状固定日以降も、装具費として最低一〇〇万円は必要である。

(3) 逸失利益 一億〇八六六万六七二一円

日本における給与体系に鑑みれば、原告は、将来、平成八年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子労働者の全年齢平均賃金である、年間五六七万一六〇〇円程度の収入を得る蓋然性がある。

そして、中間利息の控除方法については、現在の経済状況に照らせば、複利方式ではなく単利方式であるホフマン方式を採用すべきである。

原告の後遺障害の内容及び程度(等級表二級該当)等によれば、原告は、一八歳から六七歳までの四九年間にわたり、その労働能力を一〇〇%喪失したというべきである。原告のように、幼児期に精神障害と身体障害が合併して発症した場合には、時の経過により精神の障害が軽減すると逆にそれがストレスとなり身体の障害を招くということも十分考えられ、時の経過により後遺障害の程度が軽減するとは限らないし、また、原告のように、日常生活能力や知識を取得していない幼少期に事故にあった場合は、たとえ、成長により後遺障害の程度が軽減することがあったとしても、それをもって直ちに労働能力が回復すると判断するのは相当でない。

(4) 慰謝料

〈1〉 入通院慰謝料 三六二万円

原告の傷害の程度及び入通院経過等に照らせば、その慰謝料は三六二万円が相当である。

〈2〉 後遺障害慰謝料 二二〇〇万円

原告の後遺障害の内容及び程度(等級表二級該当)等に照らせば、その慰謝料は二二〇〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用 五〇〇万円

(被告らの主張)

(1) 症状固定日(平成九年一二月三一日)までに発生した積極損害

〈1〉 治療費

平成九年一二月三一日までの治療費が、七一〇万三八一三円であることは認める。

〈2〉 交通費

平成九年一二月三一日までの交通費が、四一二万五三六〇円であることは認める。

〈3〉 入院雑費

入院期間九九日につき一日あたり一二〇〇円を限度に認めるのが相当である。

〈4〉 付添看護費

平成九年一二月三一日までの付添看護費が、九三四万円であることは認める。

(2) 将来の積極損害

原告は、現在、移動、清潔(洗面・入浴等)、食事及び衣類の脱着等ほとんどの動作を自立して行えており、今後の成長、発達及びリハビリ等により日常起居動作が一応行えるようになる可能性が高く、介護費を認めるとしても、せいぜい中学生までの間が相当である。

そして、介護費は、一日あたり三〇〇〇円が相当である。

また、平成六七年には、原告は六五歳となり、介護保険制度の適用により、最重度の要介護度五の場合には、自己負担額は三万五八三〇円にすぎないから、平成六七年以降の介護費は、月額三万五八三〇円と認めるべきである。

(3) 逸失利益

原告の後遺障害の内容、程度(等級表五級該当)等に照らせば、原告の労働能力喪失率は七九%と認めるのが相当である。

(4) 損害のてん補

被告らは原告に対し、仮処分決定に基づいて、平成一二年九月末までに四八〇万円を仮払いしたのであるから、これについても、損害のてん補として損益相殺の対象とすべきである。

第三争点に対する当裁判所の判断

1  本件事故態様及び過失割合

証拠(甲一、二〇の一ないし一一)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故現場の概況

本件事故現場は、別紙交通事故現場見取図(以下「図面」という。)記載のとおり南北にのびる道路(以下「南北道路」という。)と東西にのびる道路(以下「東西道路」という。)が交差する、信号機の設置されていない交差点(以下「本件交差点」という。)である。本件交差点内においては、南北道路には一時停止の規制がなされている。また、本件交差点北西角には、神鋼メックス株式会社のコンクリート壁(高さ約二・一m)がある上、その外側に植木が茂っているため、見通しが悪くなっている。なお、制限速度は、南北道路、東西道路ともに四〇km/hである。

(二)  本件事故態様及び過失割合

被告千恵は、被告車を運転して、南北道路を北から南に向かい約四〇km/hで進行していたが、本件交差点に進入する際に、一時停止しないで約三〇km/hで進行したため、図面記載〈1〉地点付近まで進行して初めて、図面記載〈ア〉地点付近を進行していた原告車に気づき、ブレーキを踏むとともにハンドルを左に切ったが間に合わず、図面記載〈×〉地点付近において、被告車前部が原告車の左側面に衝突した。

訴外華英は、原告を後部左側の座席に乗せて原告車を運転し、東西道路を西から東に向かい約三五km/hで進行していた。そして、訴外華英は、減速して約二〇km/hで本件交差点に進入し、図面記載〈イ〉地点付近まで進行して初めて、図面記載〈2〉地点付近を進行していた被告車に気づいたが、回避の措置をとる間もなく、図面記載〈×〉地点付近において、原告車の左側面に被告車前部が衝突した。

以上認定の本件事故態様に照らせば、被告千恵には、本件交差点に進入する際、一時停止して左右の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠った過失がある。他方、訴外華英は、図面記載〈イ〉地点付近まで進行して初めて、被告車に気づいたというのであるから、前方及び左側方に対する注意をやや欠いていたといわざるを得ない。したがって、訴外華英にも、本件交差点北西角の見通しが悪かったのであるから、前方及び左側方に十分な注意を払って進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があるというべきである。

以上のとおり、本件事故は、被告千恵、訴外華英の双方の過失の競合により発生したといえるが、被告千恵が、一時停止して右方の安全確認を十分行った上で本件交差点に進入していれば本件事故は容易に回避できたこと、訴外華英は、本件交差点に進入する際、約二〇km/hまで減速したこと等を考慮すると、過失割合は、被告千恵九割に対し、訴外華英一割と認めるのが、相当である。

そして、証拠(甲四、二〇の九、二〇の一一)によれば、訴外華英は、原告の母である訴外奥村珠英(以下「訴外珠英」という。)の妹であり、訴外華英と原告は身分上一体を成す関係にあるといえるため、訴外華英の前記過失を、被害者側の過失として斟酌するのが、公平の観点から相当である。

2  後遺障害の症状固定日及び内容・程度

(一)  原告の症状経過

証拠(甲二二の一、二、二三ないし二八、二九の一、二、乙一ないし四、鑑定書)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、本件事故日である平成七年五月二七日、順心病院に搬送され、脳内出血と診断されたが、搬送時の意識レベルはJCSⅢ―一〇〇~二〇〇、開眼なし、言葉による応答なし、運動反応異常屈曲、瞳孔不同なしなどという状態であった。

同日、明石市立市民病院に転送され、外傷後約五時間半の時点で、意識レベルはJCSⅢ―一〇〇~二〇〇、軽度瞳孔不同、対光反射あり、左片麻痺、右上肢は自発運動ありなどという状態で、右大脳基底核部に血腫が増大していたため、血腫除去のため開頭血腫除去術が施術された。術後、しばらくは、術前とほぼ同様の昏睡状態が続いたが、しだいに意識状態は改善し、同年六月七日ころから単純な言語指示に対して少しづつ反応し始め、同月一二日ころから自発的開眼、追視等が見られるようになり、さらに、同月二三日ころには発語するようになった。同年七月五日のMRI検査では、右基底核部の変化のみで、びまん性脳損傷の所見はなく、以降、リハビリを中心とした治療が行われた。

同月二一日、一応独力での立位が可能な程度に回復したため、明石市立市民病院を退院し、その後は経過観察等のため同病院に通院しながら、ボバース記念病院、姫路市立花北診療所、服部物療院及び南大阪療育園・あさしお園において、理学療法、作業療法、運動療法及び言語療法等のリハビリや治療等を継続的に行った。

(2) リハビリ等の過程において、平成九年二月一日(原告六歳九か月)に南大阪療育園で実施した新版K式発達検査では、動作性発達年齢五歳一〇か月・発達指数八五、言語性発達年齢六歳〇か月・発達指数八七と評価された。同年八月二六日のADL(日常生活動作)検査では、箸で食べること、茶碗を持って食べること、タオルを絞ること、上着をズボン・スカートの中に入れること等のADLは完全には自立できていない状態と判定された。同年九月二日ころには、歩行に関しては、左上肢屈曲は改善されているが反対に伸展が優位となっていること及び全体的に非対称姿勢は改善されていること等が、ADLに関しては、上着・ズボンの着脱における左上肢の使用状況が改善されているが、左上肢単独での使用は不可、靴下の着脱は上手くなっていること等が確認された。同年一二月一二日ころには、走行時の右傾斜姿勢、左上肢の連合反応等の障害が残っている状態であった。平成一〇年三月一一日には、多動的なところがある、左上肢の回内運動は充分、歩行は左尖足であるが短下肢装具で抑制している、不随意運動が問題であるなどという状態であった。

また、平成一一年三月二六日(原告九歳〇か月)に実施した新版K式発達調査の結果、全領域において、発達年齢七歳四か月・発達指数八一と評価され、同月二九日に実施したフロスティッグ視知覚発達検査の結果、全体としての知能指数は八二であり、視覚運動協応での素早い対応が困難で、かつ、図形と素地の検査における無関係な刺激排除が困難であり、形の恒常性での検査において落ち込みが見られると評価された。

(二)  原告の現在の状況

証拠(乙八、九、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

現在は、箸を上手に使えない、ホックやファスナー付きの服の着脱ができない、入浴時身体の右側が洗いにくく特に右腕は洗えない、左上肢の不随意運動がある等の身体的障害に加え、歩きながら突然大声を出したり、歌ったりする等の精神的に未発達な面が残っている。

また、原告は、平成八年四月から小学校に通学し始め、現在は四年生のクラスにおいて、通常の生徒と同様の科目を学習しているが、使用している教材、テストの内容及び指導内容等は、身体及び精神の障害を考慮したものとなっている。

日常生活における家族等の介助に関しては、特定の服の着脱、入浴の際には介助を受けているほか、登下校など歩行する際には、不随意運動による転倒及び他人や障害物への衝突等の危険があるため介助を受けている。

(三)  後遺障害に対する担当医らの見解の要旨

(1) 明石市立市民病院脳神経外科上口正医師(以下「上口医師」という。)の見解の要旨

甲二の三によれば、上口医師は、平成九年一二月一三日付け回答書において、要旨以下のとおり回答していることが認められる。

外傷性てんかんについては、現在のところ生じていないが、小児では成人より発症率が高いため、外傷後二年半を経過しても発症する可能性がある。左片麻痺、構語障害、知能障害等については、成長期であるため安易には回答しにくいが、大きく変化して良くなるということは難しく、逆に、外傷性てんかんを生じた場合には、けいれん発作を契機として障害を悪化させる危険はある。

受傷から約二年半を経過した現在では、一般的に言って症状固定時期として良いと思うが、上記のとおり症状が悪化する場合も考えられる。

(2) ボバース記念病院大川敦子医師(以下「大川医師」という。)の見解の要旨

甲三の二によれば、大川医師は、平成九年一一月六日付け回答書において、要旨以下のとおり回答している。

原告の症状については、平成九年一一月以降、大きな変化は期待できないが、原告は現在七歳であり、身体成長に伴い症状が悪化する危険もあるため、厳密には(医学的には)症状固定と判断できないが、社会的な面からほぼ症状固定として良いと思う。

(3) 南大阪療育園大下舜治医師(以下「大下医師」という。)の見解の要旨

大下医師は、調査嘱託の結果において、要旨以下のとおり回答している。

現在の症状については、日常生活動作(ADL)は、右上肢のみで可能なものは全く問題ないが、両上肢協調動作、あるいは左上肢のみで行う動作については、できない動作や、できたとしても時間がかかりすぎたり、上手にできないことがある。そして、このような状態は、改善を期待することができず、今後も残るものと考える。言語障害については、将来的には、簡単な会話は成立するが、精神的な幼さがあること及び社会的なルールの習得が困難なことから、複雑な会話が成立するかは疑問である。IQについては、平成一二年三月二一日(原告九歳一二か月)に、WISC―Ⅲを使用して判定したところ、言語性IQは六七、動作性IQは六五、全検査IQは六三という結果で、いずれも遅れを認めたが、どの程度改善されるかの予測は不可能である。

将来の介護等については、今後も定期的な診察や脳波検査のために通院が必要であり、また、機能訓練も継続して行う方が良い。将来的に、いくら頑張っても上手にできないこと、早くできないことは残ってしまうため、介助は必要であろう。

将来の就労可能性については、現在の知的レベルが将来めざましく改善することは期待できず、知的発達はするが、同年齢児との格差が大きくなる可能性の方が大きい。加えて、身体的な機能障害の存在を考慮すると、将来、他人の監視下で単純な軽作業をすることは可能であろうが、経済的に自立できる保障はない。

(四)  鑑定書及び鑑定人に対する書面による尋問の回答書(以下「鑑定書等」という。)の概要

(1) 後遺障害の内容、程度及び後遺障害等級に関して

原告には、頭部外傷後遺障害として、中枢神経系の機能障害(左上下肢の片麻痺及び片側アテトーシス・ジストニア)、精神の障害(集中力持続困難、多動的、情動抑制困難等)、潜在性外傷性てんかんあるいはその疑いが併発している。中枢神経系の機能障害及び精神の障害は、それぞれ少なくとも等級表の五級に該当し、三級に近く、身体的には、「極めて軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に当たる上、精神・知的障害の存在により、労務内容、職種等に大きな制約を加えて、労務の選択肢を著しく狭めることになり、監視者や協力者がない場合の自宅外行動における身体的危険は著しく高く、総合的に判断すると、ほとんど就労不可能と見るのが妥当である。そして、指導、監督下での極めて軽易な労務が可能であるといっても、現実的に考えると、自宅外の行動が困難で、随時他人の介護を要するものに該当すると見るのが妥当である。

なお、潜在的な外傷性てんかん発症の危険性は、その性質上、中枢神経系の機能障害に包含されると考えられる。

(2) 症状固定時期に関して

原告の中枢神経系の機能障害は平成九年八月ないし九月ころ、精神の障害は平成一〇年三月一一日ころ、潜在性外傷性てんかんあるいはその疑いは遅くても平成一〇年五月ころまでに、それぞれ症状固定した。そして、後遺障害全てを包括しうる最も長い期間である平成一〇年五月三一日をもって症状固定時期と判断した。

(3) 将来の治療等の必要性に関して

中枢神経系の後遺障害の程度からは、小児期に特有の二次的な障害として、片麻痺による脊柱側弯の発生及びその増悪、精神・知的障害による社会的不適応等が発生する可能性が相当に考慮される。このような二次的な障害の発生及びその増悪を防止し、社会的適応能力を育成するためには、少なくとも成長期である一八歳くらいまでは、整形外科的及び精神心理的管理・療養を継続的に行っていく必要がある。

(4) 介護に関して

原告の後遺障害の内容、程度等からすると、原告は、身体機能的、精神的に相当未熟のまま成人する可能性が高く、成長に伴って自宅外での単独行動がある程度できるまで顕著な回復が見込めるとは言い難いため、総合的な介護内容が身体的成長に伴って軽減されるべき要件が整っているとは考え難い。

(五)  日本脳神経外科学会認定専門医医学博士長野展久の意見書(甲三〇、三一)の概要

(1) 症状固定日について

原告の左片麻痺は平成九年八月ないし九月ころ症状固定し、精神の障害に関しては平成九年二月七日に実施した新版K式発達検査と、平成一一年三月二六日に実施した同検査では、ほとんど評価が変わっていないことを考慮すると、遅くとも平成九年九月ころには症状固定したと考えるのが妥当である。また、外傷性てんかんに関しては、原告は受傷初期の段階でけいれん発作を起こして以降は一度もてんかん発作を発症していないこと、受傷から二年四か月以上経過したことを考慮すると、平成九年九月ころには外傷性てんかん発症の危険性はかなり低いと考えられるため、平成九年九月ころには症状固定したと考えるのが妥当である。

(2) 後遺障害の内容、程度及び後遺障害等級に関して

原告の左片麻痺については、独歩は可能であるが安定性を欠いており、左上肢は巧緻運動障害が強くほぼ廃用の状態である。高次脳機能障害については、発達指数が八一と明らかに低下している。ADLについては、移動、清潔、食事、衣類の脱着等ほとんどの動作が自立しており、階段歩行や両手の協調運動を要する動作で部分介助を要している。

以上の状況を総合考慮すると、労働能力については、もし可能になったとしても、他人の監視の下での極めて軽易な就労ができる程度に限られるであろうと思われる。将来的には、生理的発達、成長によって周囲の良好な環境の下で、ごく軽易な労働を行いうる可能性は持っていると思われる。

(3) 将来の介護について

現在の運動能力に今後の生理的成長、発達が加われば、ADLが完全に自立しうる可能性は十分にあると思われ、したがって、現在行われているような介護や監視が必要とされるのは、せいぜい中学生までの間であり、それ以降も現在のような介護、監視が必要とされる可能性は低いと思われる。

(六)  当裁判所の判断

(1) 症状固定時期に関して

中枢神経系の機能障害に関しては、鑑定書等及び意見書(甲三一)によれば、平成九年八月ないし九月ころ症状固定したことが認められる。

精神の障害に関しては、原告のリハビリ等担当医であった上口医師の一般的に言って症状固定として良いと思う旨の見解及び大川医師の社会的な面からほぼ症状固定として良いと思う旨の見解に加え、平成九年二月一日に実施した新版K式発達検査の評価と、平成一一年三月二六日に実施した同検査の評価とで特段の変化が見られないこと等を考慮すれば、遅くとも平成九年一二月には症状固定したと解するのが相当である。

外傷性てんかんに関しては、鑑定書等によれば、現在は発症していないが、原告は小児であるため、外傷後二年半を経過しても発症する可能性があること及び経過観察期間としては受傷後二年ないし三年が一般的であることから、受傷後三年後の平成一〇年五月を症状固定時期と判断したとされているところ、原告には、外傷性てんかん発症の危険性はあるものの、受傷から四年経過した現在も発症していないことからその危険性は低いと解されること、鑑定書等によれば、外傷性てんかんは後遺障害等級の判断においては、その性質上中枢神経系の機能障害に含まれると解され、原告の後遺障害の主要な部分ではないというべきであること、前記のとおり、原告の中枢神経系の機能障害は、受傷から約二年四か月経過した平成九年八月ないし九月ころ症状固定したことが認められ、外傷性てんかんの一般的な経過観察期間としても妥当であること等を総合考慮すると、症状固定時期の判断においては、外傷性てんかんは中枢神経系の機能障害の一つとして平成九年八月ないし九月ころに症状固定したと解するのが相当である。

以上から、原告の後遺障害は、遅くとも平成九年一二月三一日には症状固定したことが認められる。

(2) 後遺障害等級、将来の就労可能性等に関して

鑑定書等によれば、原告はほとんど就労不可能の状態であり、指導、監督が行われる理想的環境下であれば極めて軽易な労務に服することができるが、現実的には、自宅外の行動が困難で、随時他人の介護を必要とするものに該当すると解すべきであるとして、後遺障害等級を二級相当と判断した。

また、調査嘱託の結果及び意見書(甲三〇)によれば、原告は、他人の監視下という周囲の良好な環境の下で、単純な軽作業を行いうる可能性があるとされている。

そこで検討するところ、平成九年二月一日に実施した検査における発達年齢と比較して、平成一一年三月二六日に実施した検査における発達年齢が成長していることから分かるように、精神面に関しては、一定の年齢までは加齢に伴う生理的発達、成長により介護の負担等はある程度減少する蓋然性が高いといえる。

しかしながら、精神面に関して成長するとはいえ、同年齢の他人との格差は拡がる可能性が大きいこと(調査嘱託の結果)、身体的障害に関しては大きな改善は見込まれないこと等を考慮すると、将来的にも、自宅外の行動に関しては、一定の困難が伴うため、ある程度他人の介護を要するという現在の状態が継続する蓋然性が高いと解するのが相当である。

加えて、現在の雇用状況、社会状況等を考慮すると、形式的には他人の指揮、監視下で単純な軽作業を行いうる可能性があるといっても、現実に就労して収入を得ることは極めて困難であると認められ、したがって、実質的に考えると、等級表の「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」(二級)に相当すると認めるべきである。

3  損害

(一)  症状固定日(平成九年一二月三一日)までに発生した積極損害

(1) 治療費 七一〇万三八一三円

前記認定のとおり、原告の後遺障害は平成九年一二月三一日に症状固定し、症状固定日までの治療費が七一〇万三八一三円であることは当事者間に争いがない。

(2) 交通費 四一二万五三六〇円

症状固定日(平成九年一二月三一日)までの交通費が四一二万五三六〇円であることは当事者間に争いがない。

(3) 入院雑費 四二万六四〇〇円

原告が、症状固定日(平成九年一二月三一日)までに、明石市立市民病院に五六日間、ボバース記念病院に三六日間、大阪市立総合医療センターに七日間入院したこと、あさしお園・南大阪療育園に二三六日入園したこと及び大阪市立総合医療センターに入院した期間(七日間)は、あさしお園・南大阪療育園に入園した期間と重なっていることについては当事者間に争いがない。被告らは、あさしお園・南大阪療育園の入園期間を入院雑費の対象としていないが、雑費の必要性という面からは、入院と区別して考えるべき特段の根拠はなく、したがって、入院雑費は、四二万六四〇〇円と認めるのが相当である。

計算式 328×1,300=426,400

(4) 付添看護費 九三四万円

症状固定日(平成九年一二月三一日)までの付添看護費が九三四万円であることは当事者間に争いがない。

(5) 装具費(争いがない。) 一一八万五〇二一円

(6) 住居費(争いがない。) 二四六万九五九〇円

(7) 文書費(争いがない。) 三万〇二八〇円

(8) 諸雑費(争いがない。) 一三万五四〇〇円

(二)  将来の積極損害

(1) 治療費及び交通費 七一〇万八二〇一円

鑑定書等によれば、原告には、二次的な障害の発症及びその増悪の可能性があり、それを防止するために、成長期である一八歳くらいまでは、整形外科的及び精神心理的管理・療養を継続的に行う必要があることが認められ、また、調査嘱託の結果によれば、定期的な診察や脳波検査のための通院、機能訓練のための通院が必要であることが認められる。

すなわち、原告は、症状固定後も一八歳までは、あさしお園、ボバース記念病院及び服部物療院において、現在とほぼ同様の治療等を継続的に受ける必要があることが認められ、原告の後遺障害の内容、程度及び原告の年齢等を考慮すると、その通院の際には少なくとも一人の付添が必要であると解すべきである。

そして、具体的には、証拠(乙五の一ないし三、六、七の一、二、八、九)及び弁論の全趣旨によれば、あさしお園に関しては、年間二五回程度通院し、一回あたりの治療費は平均約一六五〇円、交通費(付添人一人分を含む。)は一六八〇円必要であり、ボバース記念病院に関しては、年間三〇回程度通院し、一回あたりの治療費は平均約一八九〇円、交通費(付添人一人分を含む。)は二〇二〇円必要であり、服部物療院に関しては、年間九〇回程度通院し、一回あたりの治療費は五〇〇〇円、交通費(付添人一人分を含む。)は二二八〇円必要であることが認められる。

したがって、症状固定後も治療費及び交通費(付添人一人分を含む。)として、年間八五万五七五〇円程度必要となる。

以上から、症状固定時から一八歳になるまでの一一年間に必要な治療費及び交通費(付添人一人分を含む。)の現価を、ライプニッツ方式により年五%の中間利息を控除して算出すると、七一〇万八二〇一円となる。

計算式 (1,650+1,680)×25+(1,890+2,020)×30+(5,000+2,280)×90×8.3064=7,108,201

(2) 介護費 三五三〇万〇二四五円

大下医師は、原告の身体的障害は、改善を期待することができず今後も残るものとの見解であること、上口医師及び大川医師も、原告の症状については大きな変化は期待できないとの見解であることを考慮すると、原告は、症状固定時(七歳)から平均余命である七七歳までの七〇年間にわたり、継続した介護を必要とすると解するのが相当である。

この点、被告らは、今後の成長、発達及びリハビリにより日常起居動作が行えるようになる可能性が高く、介護費を認めるとしてもせいぜい中学生までの間が相当である旨主張し、意見書(甲三〇)は、被告らの主張に沿う内容となっている。

しかしながら、原告の身体的障害に関して、今後の生理的発達、成長によりADLが完全に自立する蓋然性があることの裏付けとなる検査結果や所見は必ずしも十分でなく、原告は、将来的にも、両上肢協調動作及び左上肢のみで行う動作等一定のADLに関しては介助を必要とすると解すべきである。

そして、原告の年齢、母子家庭という家庭状況、訴外珠英が本件事故までは就労していたこと、訴外珠英が准看護婦の資格を有していること、訴外珠英の現在の収入額等を総合考慮すると、本件事故後現在までは、訴外珠英のパートタイマーによる収入、保険会社からの送金及び仮処分決定に基づく仮払金等により家計を維持していたが、今後は、家計を維持するために訴外珠英が再び定職に就き、原告の介護は職業付添人に依頼する蓋然性が高いというべきであるから、介護費については、当初は、職業付添人を雇用することを前提としてその額を算定するのが相当である。

ただし、原告は、完全に自立しているADLも多いため、介護の必要な場面はある程度限られていること、精神面に関しては加齢に伴う生理的発達、成長により介護の負担等が軽減される蓋然性があること等を考慮すると、将来的には介護が軽減されると考えられ、介護費としては、症状固定時(七歳)から平均余命である七七歳までの七〇年間にわたり、平均して一日あたり五〇〇〇円と認めるのが相当である。

なお、被告らは、原告は平成六七年に六五歳となり、以降介護保険制度の適用があるから、平成六七年以降は自己負担額以上の介護費を認めるべきでない旨主張するが、平成六七年以降に、現行の介護保険制度がそのまま維持されているとは認め難く、被告らの主張は採用できない。

以上から、原告の介護費の現価を、ライプニッツ方式により年五%の中間利息を控除して算出すると、三五三〇万〇二四五円となる。

計算式 5,000×365×19.3426=35,300,245

(3) 装具費 一〇〇万円

原告の歩容は、左尖足のため短下肢装具で抑制している状態であり、一応歩行は可能であるが、歩容が悪く不安定であることから、長時間、長距離の移動には車椅子の利用が必要であると認められる。そして、原告の身体的障害は、将来的にも大きく改善されることなく継続することからすれば、原告は、症状固定時(七歳)から平均余命である七七歳までの七〇年間にわたり、歩行補助具及び車椅子が必要であると解すべきである。

そして、証拠(甲一四の二、一四の六、一四の一三及び一四の一七)及び弁論の全趣旨によれば、歩行補助具については、原告は、症状固定時から成長期が概ね終了する一八歳までの一一年間は、身体的成長に伴い年一回の交換が、その後の五九年間は、耐用年数等を考慮して四年に一回の交換が必要であり、一回の交換に必要な費用は、修理費等の維持費を含めて六万円と認めるのが相当である。

また、証拠(甲一四の一〇)及び弁論の全趣旨によれば、車椅子については、耐用年数等を考慮して五年に一回の交換が必要といえ(車椅子については、歩行補助具よりも身体的成長に伴う交換の必要性は低いと思われ、成長期であっても五年に一回の交換で足りると考える。)、一回の交換に必要な費用は一六万五〇〇〇円であることが認められる。

以上から、将来必要となる装具費の現価を、ライプニッツ方式により年五%の中間利息を控除して算出すると、以下の計算式のとおり、一〇〇万円を超えることが認められ、将来の装具費として少なくとも一〇〇万円必要であることが認められる。

計算式 60,000×8.3064+60,000×(0.5847+0.481+0.3957+0.3256+0.2678+0.2204+0.1813+0.1491+0.1227+0.1009+0.0831+0.0683+0.0562)=680,592

165,000×(0.7835+0.6139+0.481+0.3769+0.2953+0.2314+0.1813+0.142+0.1113+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419+0.0329)=577,566

680,592+577,566=1,258,158

(三)  逸失利益 六一〇八万九五九八円

原告は、症状固定時七歳の男子であり、将来的には、平成九年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子労働者の全年齢平均賃金である年間五七五万〇八〇〇円程度の収入を得る蓋然性があったというべきである。

そして、前記認定のとおり、原告の後遺障害の内容、程度、原告の年齢、就労可能性その他諸般の事情を総合考慮すると、原告は、一八歳から六七歳までの就労可能期間の全期間にわたり、その労働能力を一〇〇%喪失したと解するのが相当である。

したがって、原告の逸失利益の現価を、ライプニッツ方式により年五%の中間利息を控除して算出すると、六一〇八万九五九八円となる。

計算式 5,750,800×1.0×(18.9292-8.3064)=61,089,598

(四)  慰謝料

(1) 入通院慰謝料 三六二万円

原告の傷害の程度及び入通院経過等に照らせば、入通院慰謝料は三六二万円と認めるのが相当である。

(2) 後遺障害慰謝料 二二〇〇万円

原告の後遺障害の内容、程度、原告の年齢、その他の事情を総合考慮すると、後遺障害慰謝料は二二〇〇万円と認めるのが相当である。

(五)  過失相殺及び損益相殺後の損害

以上認定の損害の合計(一億五四九三万三九〇八円)に、前記認定の訴外華英の過失割合一割の過失相殺を行うと、過失相殺後の損害は、一億三九四四万〇五一七円となり、被告らからの既払金二九九一万三三五四円の損益相殺を行うと、原告の損害は一億〇九五二万七一六三円となる。

なお、被告らは、仮処分決定に基づく仮払金を損益相殺の対象とすべきである旨主張しているが、仮払金は、その性質上、損害のてん補と解することは相当でないから、損益相殺の対象とはならないというべきである。

(六)  弁護士費用 五〇〇万円

本件の審理経過及び認容額等に照らせば、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用は、原告主張の五〇〇万円を下回るものでないことが認められる。

第四結論

以上のとおり、反訴原告の請求は、反訴被告らに対し、連帯して一億一四五二万七一六三円及びこれに対する本件事故日である平成七年五月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦 齋藤清文 池田知史)

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